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大阪地方裁判所 平成11年(フ)4128号 決定 2000年7月13日

異議申立人(破産債権者)

大阪府中小企業信用保証協会

上記代表者理事

上記代理人弁護士

中務嗣治郎

小林章博

被申立人

破産者a漆器工芸社こと

B 破産管財人 Y

主文

被申立人は、本件破産事件について平成一二年四月一一日付けで作成した配当表を、異議申立人の届出債権(求償権八八三万八〇〇〇円)を配当に加えるべき債権として更正せよ。

理由

第1申立ての趣旨及び理由

1  申立ての趣旨

主文同旨

2  申立ての理由

被申立人は本件破産事件の最後配当に係る配当表において、異議申立人が破産者に対して有する届出債権(求償権八八三万八〇〇〇円)を配当に加えるべき債権としていない。

異議申立人は破産者の申立外尼崎信用金庫(以下「申立外信用金庫」という。)に対する債務の連帯保証人としてその債務の一部を代位弁済したが、代位弁済により法律上(民法五〇〇条)取得し得る申立外信用金庫が破産者に対して有する別除権の一部を、代位弁済以前にあらかじめ放棄しており、別除権を当初より取得していないのでその別除権の放棄又はその別除権の行使によって弁済を受けることができない債権額の証明は不要であるので、異議申立人が最後配当から除斥される理由はない。

第2当裁判所の判断

当裁判所は以下のとおりの理由をもって、異議申立人の異議申立ては理由があると認め、被申立人は配当表を更正すべきものと判断する。

1  一件記録により認められる事実

一件記録によれば、以下の事実が認められる。

本件破産事件の破産者a漆器工芸社ことB(以下「破産者」という。)は平成一一年七月二六日午後二時二〇分破産宣告を受け、同時に弁護士Y(被申立人)が本件破産事件の破産管財人として選任された。

破産者は破産宣告時に別紙物件目録≪省略≫記載の不動産(以下「本件不動産」という。)を所有しており、本件不動産は破産財団を構成する財産であったが、平成一一年九月一三日、被申立人は本件不動産を破産財団から放棄する旨の許可を当裁判所に申請し、当裁判所は同日その旨許可した。被申立人は、平成一二年四月一九日付けで、本件不動産の破産登記の抹消登記嘱託当裁判所に対して上申し、当裁判所はそのころ上記登記嘱託を行い、平成一二年四月二一日付けでその旨の登記がなされた。

本件不動産には、破産宣告時、申立外信用金庫の破産者に対する債権を担保するための極度額一二〇〇万円の根抵当権(以下「本件別除権」という。)が設定されており、申立外信用金庫は、債権届出期間内(平成一一年九月一〇日まで)に本件別除権によって担保されている破産者に対する二五七六万五二八二円の貸付金(残元金)債権を別除権付き債権として届け出て、被申立人は債権調査期日(同年一〇月一四日)に別除権の被担保債権として全額認め、別除権の行使によって弁済を受けることができない債権額として九〇〇万円を認める旨の認否を行い、その旨債権表に記載された。

申立外信用金庫は、破産宣告後、本件不動産の競売を申し立て、平成一一年一〇月二〇日、競売開始決定がされた。

異議申立人は、破産者の申立外信用金庫に対する平成一〇年一二月一八日付け金銭消費貸借契約に基づく一〇〇〇万円の貸付金債務について、破産者と異議申立人との間の同月一五日付け信用保証委託契約に基づき信用保証をしており、平成一一年一〇月一五日、申立外信用金庫に対して、上記債務の残元金八八三万八〇〇〇円及び利息の内金四万三八三八円の合計八八八万一八三八円を代位弁済し(以下「本件代位弁済」という。)、同月二六日、当裁判所に対して申立外信用金庫の破産者に対する前記二五七六万五二八二円の貸付金(残元金)債権のうち八八三万八〇〇〇円を本件代位弁済により承継した旨届け出たが、その届出書には、「尚、今回の代位弁済に伴う担保の移転は受けておりません。」と記載されていた。被申立人は、そのころ、上記承継について了承した。

ところで、異議申立人の本件代位弁済の担当者は、本件代位弁済をする以前に法律上本件代位弁済によって取得する本件別除権の一部の移転を受けるかどうかについて調査を行ったが、その結果、異議申立人はそれをあらかじめ放棄することとし、平成一一年一〇月一日、申立外信用金庫の担当者に対して、異議申立人は申立外信用金庫が有する本件別除権についての法定代位権を放棄するので、本件別除権の一部の移転のために必要な準備を申立外信用金庫がする必要はない旨を電話で伝えて、その放棄の意思表示を行っていた(この事実は、本件異議申立後に異議申立人が提出した異議申立人及び申立外信用金庫の各担当者の陳述書によって認定したものであるが、後日の無用の混乱を避けるために、異議申立人と申立外信用金庫とは、異議申立人が代位弁済により承継すべき別除権をあらかじめ放棄する旨の書面をその時に作成し、それを破産債権承継届出書に添付して提出すべきであった。)。

被申立人は、平成一二年四月一一日、本件破産事件の最後配当にかかる配当表を作成して当裁判所に提出し、当裁判所は、同年五月二日、除斥期間を同月三一日までと定める旨決定したが、上記配当表には、異議申立人が承継した債権が配当に加えるべき債権として記載されていなかった。

異議申立人は、平成一二年五月二六日到達の内容証明郵便をもって、被申立人に対して異議申立人が申立外信用金庫の別除権付き破産債権の一部を代位弁済によって承継し、その旨の届出をしていること及び同届出書に表示してあるとおり、異議申立人は本件別除権を放棄していることを通知し、また、同月二九日到達の内容証明郵便をもって、破産者に対して本件別除権を放棄する旨通知するとともに、その書面を同日到達の内容証明郵便をもって被申立人に対して送付した。

異議申立人は、平成一二年五月三一日、配当表に対する異議申立てをした。

なお、平成一二年六月九日時点において、本件不動産の登記簿上、異議申立人の根抵当権の一部承継の付記登記はなされていない。

2  上記認定事実を前提とする判断

ところで、民法五〇〇条は、弁済を為すに付き正当な利益を有する者は弁済により当然債権者に代位する旨定めており、異議申立人は前記のとおり、破産者から信用保証委託を受けて、破産者の申立外信用金庫に対する債務を信用保証していた者であって、弁済を為すに付き正当な利益を有する者であるので、本件代位弁済により、申立外信用金庫が破産者に対して有している本件別除権を、代位弁済をした金額に応じて当然に承継して取得することができるが、その利益を異議申立人があらかじめ放棄することも、特段の事情がない限り、許されないということはなく、異議申立人があらかじめ上記利益を放棄していれば、代位弁済が行われても、別除権は異議申立人に移転することはないものというべきである。

本件では、上記認定事実のとおり、異議申立人は、本件代位弁済によって法律上取得するべき別除権を代位弁済を行う前の平成一一年一〇月一日に放棄しており、本件代位弁済によって、その金額の範囲で申立外信用金庫の破産者に対する債権を承継したが、別除権については当初より取得していなかったものというべきである。その事実は、本件不動産の登記簿上、異議申立人による本件別除権承継の付記登記がなされていないことからも認めることができる。

ただ、被申立人が上記代位弁済によって法律上当然に取得するべき別除権をあらかじめ放棄していたとの事実は、被申立人が配当表を作成した時点においては必ずしも明らかであったとはいえなかったということも否定できない。なぜならば、その時点において、被申立人が覚知し得るその点に関する資料は、前記破産債権承継届出書における「尚、今回の代位弁済に伴う担保の移転は受けておりません。」との一文の記載のみであり、その時点で、別除権をあらかじめ放棄した旨の異議申立人と申立外信用金庫とが作成した書面が提出されていたなどの事情が有れば格別、そうでない以上、この記載のみから、異議申立人が法律上取得すべき別除権をあらかじめ放棄していたとの事実が必ずしも確実に認められるとはいい難いからである。その時点において、本件不動産登記簿上、異議申立人による別除権承継の付記登記はなされていなかったが、上記一文は、その時点では移転を受けていないが、将来移転を受ける可能性もないことをも明確にしているとは必ずしもいえず、また、その疎明資料も提出されていなかった。

破産法は、担保権者に別除権として特別な地位を認めつつも、一般債権者の犠牲の下に担保権者が必要以上に保護される結果とならないように、別除権者については、その別除権の行使によって弁済を受けられない債権額についてのみ破産債権者としての権利を行使することができる旨規定しており(破産法九六条)、その趣旨に鑑みれば、本件の如く、法律上当然に別除権を取得するはずである債権者について、その放棄がなされたことが確実に認められない以上、破産者債権者として破産手続において配当を受けつつ、一方では、その後、別除権の承継の付記登記をすることによって別除権を行使し、別除権目的物の競売手続においても配当を受けるという二重取りを防止すべき必要性はその時点においては依然として存在したといわざるを得ない。

このような状況下においては、被申立人が異議申立人の債権を配当表において配当に加えるべき債権として記載しなかったことには無理からぬものがあったというべきである。

しかしながら、前記認定のとおり、その後、被申立人に対して、内容証明郵便をもって、異議申立人は本件代位弁済によって取得すべき別除権を放棄している旨の通知があり、異議申立人が本件異議申立て後に提出した資料によって、異議申立人があらかじめ上記利益を放棄していたことが明らかになった以上、異議申立人は、前説示のとおり、当初より別除権者ではなかった者として、破産法二七七条に規定する手続をとらなくても、配当に加えるべき債権者として扱うべきであり、その旨、配当表を更正すべきである。

3  以上のとおり、本件異議申立ては理由があるから、これを容れ、主文のとおり決定する。

(裁判官 植田智彦)

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